【世界一美しい島】遠い、高い、面倒、でもトリップアドバイザー1位の小島

高城剛© marchello74 - Fotolia.com
 

こんな面倒臭くて高価な島に誰が行くか、とお思いでしょうが……

『高城未来研究所「Future Report」』第187号(2015年1月16日発行)より一部抜粋

今週は、ブラジルのフェルナンド・デ・ノローニャ島にいます。

もともとこの島は、人口数百人の小さな島でしたが、近年の世界的な観光ビジネスの爆発とともに多くの観光客が押し寄せる場所になり、島民は5000人を超えるまでになりました。

しかし、この島が面白いのは観光客の入域数を制限し、1日あたり450人程度の入島に限定していることにあります。

まず、飛行機が到着するとブラジルの入国検査より厳しい入島審査があります。滞在先とその日数にあわせて、1日あたりの滞在費を日数分前払いしなくてはならず、これがないと、例えば「宿を取ってない」「行き当たりばったり」のゲストは、ここで入島を断られる可能性もあります。

しかも、この金額は安価ではありません。その上、島にはホテルが一軒もなく、「ポウサダ」と呼ばれる民宿が100軒程度しかありませんので、ゲストは、ハイシーズンには事実上言い値の「ポウサダ」の奪い合いとなります。街には、ホテルどころかチェーン店の飲食店も信号もありませんが、その分、この島には素晴らしい海(国立公園)があります。

この素晴らしい海は、2001年に「世界遺産」になったのですが、日本を除く世界の旅行者には「世界遺産」をありがたがる風習はありませんので、面白いことに島内にはまったく「世界遺産」の表記がありません(空港と町役場のそばにわずか)。

その上、この国立公園の特定ビーチに入るには、「事前予約」が必要です。このビーチに入る「事前予約」は無料ですが、オンラインの予約を受け付けていません。しかも、ビーチに入る時間まで細かく指定されている上に、すぐに「予約いっぱい」になってしまいますので、旅行に来る二週間前には、地元のツアーガイドを「事前予約」して、彼らに特定ビーチに入る「事前予約」をしてもらうしかありません。

さらに、この国立公園内に入るには、空港で支払った入島税とは別に、高額な入園料(10日間有効でおよそ1万円)を支払う必要があります。飛行機はブラジルの大都会、例えばサンパウロやリオデジャネイロからの直行便を拒否していますので、ブラジルのレシフェかナタルまで、乗り継ぎのために行く必要もあります。

すなわち、このフェルナンド・デ・ノローニャ島に行くには、ハイシーズンには驚くべき高額になる民宿を予約して、ブラジルの主要都市からレシフェかナタルまで行き、そこから数少ないフェルナンド・デ・ノローニャ行きの飛行機に乗り換え、空港で滞在日数にあわせて入島税を支払い、さらに国立公園の入園料を支払って、高価なツアーガイドに特別なビーチの事前予約とトランスポーテーションをお願いするしかないのです。

いくら海がキレイだ、といっても、こんな面倒臭くて高価な島に誰が行くか、とお思いでしょうが、旅行業界でもっとも影響力があると言われるサイト「トリップアドバイザー」で、昨年「世界でもっとも美しい島第1位」に選ばれたのは、このフェルナンド・デ・ノローニャ島なのです。

多くの旅行者や観光業関係者が誤解していると僕はよく思うのですが、レストランも観光地も、そこに来る「人」がもっとも価値であり、ダメなゲストばかりが来ている場所は、どんなに一時的に人気が上がっても、中長期的に見れば良い観光地やレストランになることはありません。すなわち、「良いゲスト」を呼び込むことが「良い観光地」や「良いレストラン」を作る最大の秘訣です。

この「良い」意味は色々あると思いますが、少なくても「治安」の意味において、観光地では大きな意味を持ちます。このフェルナンド・デ・ノローニャ島では、表のドアに鍵をかける人は、ほとんどいません。また、島の平均的乗り物であるドアがないオープン・バギーに、カバンをおいたまま出かける人は少なくありません。僕が知る限り「東京より治安がいいブラジル」は、ここだけです。

前述しましたように「いくら海がキレイだ、といっても、こんな面倒臭くて高価な島に誰が行くか」と考えるような人はここにはいませんので、それなりにお金があって、それなりに旅行上手な人たちだけが、結果的にこの島に訪れることになります。ですので、あらゆる意味でトラブルが滅多になく、その人たちが「良い環境」を作り上げ、その「良い環境」が「世界でもっとも美しい島第1位」となって世界に発信されているのです。

実は、この島の大きなターニングポイントは、数年前にありました。5年ほど前まで、このフェルナンド・デ・ノローニャ島は、いまほど大きな評価を得ていませんでしたが、国立公園のマネージメントを役所が行うのではなく、数年前に私企業に任せたことが大きなターニングポイントとなりました。それまで、ボロボロで歩くのもままならなかった木の遊歩道は、キレイな再利用可能なプラスティック製に置き換わり、主だったビーチにトイレなどが常設され、マーケティング活動も刷新されました。

あわせて、マネージメントを手がける国立公園の入園料は年々高額になり、当初は地元の人たちからも反発を呼んでいましたが、それによって良い顧客が集まり、治安が著しく良くなったこともあって、いまではその「戦略」に地元の人たちも納得しています。

ダサい役所や古くからの地元の人たちではなく、その地とは関係無いプロフェッショナルに任せたことが、この島のターニングポイントとなって、「東京より治安がいいブラジル」を作り、「世界でもっとも美しい島第1位」に押し上げることに成功したのです。

その成功理由は明白です。ダメな観光地がいつまでたっても飛躍しないのは、その地にいる役所の人々や古くからの権力者が、求める「良いゲスト」と正反対の人たちだからなのです。それをフェルナンド・デ・ノローニャ島は、教えています。

 

『高城未来研究所「Future Report」』第187号(2015年1月16日発行)より一部抜粋

著者/高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ!デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。
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