【スイスフラン暴騰】優良顧客を守れ!2011年に仕組まれたスイス銀行の策略

高城剛© pit24 - Fotolia.com
 

世界の俯瞰図

『高城未来研究所「Future Report」』第188号

スイスフラン暴騰に見る世界経済の行方につきまして、私見たっぷりにお話ししたいと思います。

1月15日、スイス国立銀行がスイスフラン対ユーロ相場に設けていた1ユーロ=1.20スイスフランの上限を突然撤廃しました。一時、スイスフランはユーロに対して40%近くも急騰し、FX業者などいくつかのブローカーが破綻することになりました。

要因は、過去数年間にわたり、スイスは無制限の通貨防衛を行いユーロを買い続け、スイスフランを売り続けていたことに端を発します。その結果、外貨準備がGDPの7割にも及び、これ以上の介入は難しいという判断です。また、ECBが国債の買い入れを含む金融の量的緩和策を打ち出す可能性があります。そうなると、ユーロ圏が量的緩和に突入した場合(時には異次元の)、スイスフランは更に買われる動きが想定され、スイスとしてはこれ以上の防衛は不可能と判断したということです。これが表向きの理由です。

では、俯瞰的にスイスフランの動きを見てみることにしましょう。まず、スイスはいつから、無制限の通貨防衛を行いユーロを買い続けはじめたのでしょうか?

実は、この発表もサプライズでした。2011年9月6日、スイス国立銀行は突如、無制限のユーロ購入を発表して市場を驚かせました。しかし、その一週間前の8月31日、スイス政府の呼びかけでモナコ公国に世界の主だった蔵相が非公式に集まりました。ここには、米国も日本の姿もありませんでしたが(なぜなら、スイス金融機関の重要顧客ではないので)、欧州主要各国や英国王室まで参加し「ある取り決め」がなされたといいます。その後、突如としてスイス国立銀行は、無制限のユーロ購入を発表したのです。

歴史的に見ても、スイス最大の産業は金融業です。なにしろ、地球上の個人資産の30%が、実質的にこの国に集まっていると言われているほどで、その理由は、歴史的背景と通貨の安定性にあります。また、顧客を徹底的に守ることでも有名です。

そこで、2011年9月6日にサプライズとしてはじまった無制限のユーロ買い入れは、欧州に点在する顧客に「避難する時間を与えるため」であり、今月、またサプライズとしてユーロ買い入れを中止したのは、「超優良顧客の避難が終わった」から、と見るのが正しいと思います。

基本的にスイスは、古くからの金融避難地で、その守りは鉄壁で世界一の信頼を誇ります。そこで、ユーロ危機によってピンチにあった顧客を守るために、スイスは、事実上ユーロとスイスフランのペグ制を取り、避難が終わったので、ペグ制を放棄したのです。

このようなことは、スイスが完全な金融立国だからこそ起こり得る話であり、ですので、いつまでたっても、スイスフランが通貨ユーロに合流することはありません(地政学的には、シェンゲン条約と共に合流していなければおかしいはずです)。それは、通貨ユーロが危機的状況に陥った際に優良顧客を助けるためで、言い換えれば真の中立性の担保に他なりません。

そして、このような優良顧客の避難が終わったことが昨秋から密かに囁かれ、事実、昨年10月には「スイス中央銀行が無制限介入を中断または放棄する可能性」が示唆され、FX業者によっては「スイスフランに限り必要証拠金の引き上げ」を行っていました。

通貨ユーロは曲がり角に差し掛かっているのは、間違いありません。それは、「超優良顧客の避難が終わった」からに他ならないのです。

 

『高城未来研究所「Future Report」』第187号(2015年1月16日発行)

著者/高城剛
1964年生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。
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