【ウクライナ情勢】アメリカに”弱い”と言われるとロシアは動く

小川和久© Aikon - Fotolia.com
 

オバマの不用意な言葉が生むロシアの好ましくない動き

『NEWSを疑え!』第370号より一部抜粋

ロシアのプーチン大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領は2月11日、ウクライナ東部の紛争を収拾するため、ベラルーシの首都ミンスクで会談した。

この4カ国首脳会談は、1月下旬にウクライナ軍が親ロシア派を相手に敗北を重ね、ウクライナ軍への武器・装備の供与を求める声が米国で高まり、それに反対するメルケル首相が2月6日に訪露し、プーチン、オランド両大統領と会談した結果、実現した。

実をいえば、ウクライナ東部の紛争が発生した後の、親ロシア派を含むロシア側による、西側にとって好ましくない動きには、あるパターンがある。

たとえばロシア側は、米国のオバマ大統領が、「ロシアは孤立しており、衰退が迫っているので、ウクライナへの軍事介入を続けても、経済制裁の負担に耐えることができない」といった主旨の発言をすると、そうした動きに出ることが多いのだ。

このパターンは、いまに始まったことではない。仮想敵国との力関係がいずれ不利になると考えた政権が、開戦を急ぐこと(予防戦争)は、ロシアに限らず戦争の原因としてしばしば見られるパターンだからである。

オバマ発言1)ウクライナ政府軍が親ロシア派に対する攻勢を強めていた2014年7月末、オバマ大統領は英エコノミスト紙(8月2日付)のインタビューに応じ、「モスクワは、機会を求める移民が押し寄せる都市ではない。ロシア人男性の平均寿命は60歳ほどだ。ロシアの人口は減っている」と述べた(実際には、この発言は3つとも事実誤認である)。

その時点で、ロシア側は8月25日以後の反転攻勢を準備していたかもしれないが、親ロシア派が7月以後に失った土地を10日間で奪回し、ウクライナ政府軍との停戦合意に至ったことは、オバマ大統領の発言の不用意さを浮き彫りにした。

オバマ発言2)オバマ大統領は9月3日、エストニアの首都タリンで演説し、同国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国の安全を保障したが、2日後、エストニアとロシアの国境では、エストニア内務保安部の警察官がロシアに拉致され、今もスパイ容疑で勾留されている。

オバマ発言3)さらに、オバマ大統領は1月20日の一般教書演説で、原油価格下落によるロシア経済の苦境をあざ笑った。外交への言及が少ない演説でわざわざ言及したのは、「プーチンにはリーダーシップがあり、敵ながらあっぱれだが、オバマにはない」と批判していた米国のタカ派を見返すという、国内政治上の理由からである。

その後のウクライナ情勢を受けた、ウクライナ軍に武器・装備を供与することの是非に関するオバマ政権の迷走をみると、一般教書演説に対するロシア側の反応を予測していた気配はない。

ロシアと西側の力関係が長期的にはロシアに不利であることを、米国が強調するほどに、ロシアは軍事力行使によるウクライナの永世中立化または衛星国化を急ぐ──というのが、ロシアによる予防戦争を貫く論理である。

それはドイツによる二度の世界大戦の開戦(ロシア・ソ連の工業化と軍近代化の防止)、日本の対米開戦(海軍力の比率の悪化の防止)、2003年の米国のイラク進攻(大量破壊兵器生産の防止)などの例が示しているのだが、オバマ政権当局者は歴史に学ぶ気がないように見られる。

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

 

『NEWSを疑え!』第370号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者を経て、日本初の軍事アナリストとして独立国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査など歴任。メルマガ『NEWSを疑え!』を毎週 月・木曜日発行中
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