「邦人シリア拘束」で浮き彫りになった、国境なき記者団の違和感

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戦場ジャーナリストの安田純平さんが周囲との音信を絶って六ヶ月が経とうとしています。そして12月22日、パリに本部のある「国境なき記者団」が日本政府に対して安田さんの救出を求める声明を出しました。事件の進展が見られない中、なぜ今なのか?『異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで』の著者で安田さんとも親交のある加藤健二郎さんは、現在の状況について冷静な見解を述べています。

シリア:日本人安否情報の出し方

シリアで行方不明安田純平氏の救出に向けて「国境なき記者団」が12月22日に「日本政府に尽力するよう求める」との声明を発表した。これに関して、カトケンの周囲のいろいろな人からも「なぜこのタイミングに発表を?」という声が出ている。事件の進展や真相がなにか動いたとか発見されたわけでもない内容だからである。

【参考】邦人、シリアで拘束か? 治安当局に泳がされている可能性も(7月19日掲載)

過去にも、2~3か月おきくらいのペースで、信頼度の低い情報が官庁内を含む関係者たちの間で流れては消えていた。信頼度の低い情報がある程度以上の広さで拡散されると、「その情報発信者の意図は?」という疑惑をもたれるのは当然の流れだろう。そのためか、情報発信者が特定されない形での拡散がほとんどだった。

今回は、11月末に、安田氏死亡説が流され、その直後に、死亡を否定する 「生存説」が広まったところから始まっている。で、過去からの情報や噂を含め、それら全ての 情報で共通しているのは、安田氏を拘束しているのはヌスラ戦線だということ。当初は 「IS(イスラム国)でなくて、ヌスラだから処刑はしないであろう」という楽観説もあったものの、安田氏の生存確認資料(=動画など)も入手できていない。(これら生存証拠を巡って関係者たちの動きが続いてきていたという情報はある)

このような邦人安否危機事件が発生した場合、当然、日本外務省はある程度の動きはするわけだが、外務省にその動きを依頼できる立場の人は、当事者の家族のみということになっている。そのため今回、国境なき記者団が冒頭の声明を出した点に、違和感を覚えた人も多い。

安田氏の家族がどのように外務省に依頼しているかなどの情報はカトケンには届いていず、私と安田氏家族の交流もないのでわからないが、もし、カトケン自身が安田氏のような状況になったら、自分の家族はほとんど動かないだろう、ということを今回は、関係者たちには話した。自分の勝手なロマン(=人生感)で戦場往来を続けている人間を持つ家族の立場の1例として、以下に我が家でのやり取りを。

カトケンの親は「お前が勝手に戦争国へ行って逮捕されたり人質になったりしても、日本政府にはいかなる救出も依頼しない何億円ものお金がかかり、場合によっては、救出に携わった人の身が危険にさらされる。自分の息子1人のために、そういうことを他人(日本政府)には依頼できない。お前以外にも、うちには家族がいる。あの人たち、何億円もかけて救出してもらったヤツの家族だよ、と後ろ指さされて生きる人生を他の家族や親戚には負わせたくないから」と「自力で帰って来なければ、誰も助けになんか向かわせない」と、よく言っていた。

つまりもし、カトケンが安田氏のような状況に置かれていたら、今回のような発表に対して、我が親は「国境なき記者団とかっていう団体、よけいなパフォーマンスしやがって…」と感じることだろう。(安田氏の家族がどうだかでなく、カトケン家族場合ね…)

今回の声明によって、国境なき記者団に対する悪いイメージを強めた。もし、日本政府の交渉によって安田氏が解放されれば「国境なき記者団が日本政府に進言したからだ」と手柄を吹聴できる。もし、解放されなくても「我々が忠告したのに日本政府は努力をしてない」と責められる。国境なき医師団は実際に医師や設備を現地に派遣して、人命救助をしている実行部隊である。名前は似てるが、国境なき記者団は、どうも、口先だけの圧力団体に思えてならない。

image by: Volodymyr Borodin / Shutterstock.com

 

異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで

著者/加藤健二郎
建設技術者→軍事戦争→バグパイプ奏者、と転身してきてる加藤健二郎の多種多様人脈から飛び出すトーク内容は、発想の転換や新案の役に立てるか。
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