東芝の粉飾決算は、「嫉妬」が生んだ原発スキャンダルだった?

 

連日報道されている東芝の不正会計問題。そのどれもが同社の企業統治を問うものばかりですが、評論家の高野孟さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中で「これは疑いもなく原発スキャンダルだ」と言い切ります。

原子力ムラの苦悶を象徴する東芝の粉飾決算

東芝の歴代3社長が揃って辞任することになった同社の3年間1,500億円にも及ぶ粉飾決算問題を、ほとんどのマスコミは「企業統治」のあり方を問うとかいう気の抜けた視点でしか論じていない。しかし、これは疑いもなく「原発スキャンダル」である。日本最大の原子炉・関連機器メーカーである同社が政府・経産省と一心同体となって「原子力ルネッサンス」を推進しようとして福島第一事故で挫折、稼ぎ頭だった原子力部門がほとんど頓死状態に陥る中で、海外に活路を求めて悪あがきした挙げ句にその巨大損失を何とか世間の目に触れさせまいとして前代未聞の虚飾に走ったことに根本原因がある。

その視点を早々と提起したのは「週刊金曜日」7月10日号の「東芝不正経理の影に原発事業の不振」で、その後、先週の「週刊朝日」7月31日号「東芝を食い潰した日米の原発利権」、「AERA」8月3日号の山田厚史「大ばくちが招いた無惨/東芝が原発事業で抱える危機的な隠れ損失」などが続いた。

佐々木則夫の天国と地獄

辞任した歴代3社長のうちキーマンは佐々木則夫副会長である。なでしこジャパン監督と同姓同名のこの人物は、原子力事業を東芝の主柱の1つにまで仕立てた功労者で、03年に電力システム社の原子力事業部長に就いて以降、05年に東芝常務、06年に兼電力システム社長となって米ウェスティングハウスの買収=子会社化という大勝負をやってのけ、それをバネに07年に専務、08年に副社長、09年に社長と、1年刻みで階段を駆け上って、東芝の頂点に立った。

リーマン・ショック不況の中、09年3月期の決算では営業損益2,500億円の赤字を出したが、同年6月に社長となった佐々木は「15年度に原発事業の売上げ1兆円」と、得意の原子力を主軸に経営を立て直す大方針を打ち出した。この時が彼の人生の絶頂だったろう。その大方針が成果を上げ始める暇もない2年後、11年3月11日に福島第一原発の爆発事故が起きて地獄の底に落ちることになった。東京電力として最初の原発基地となった福島第一の1号機はGE、2号機と6号機はGE・東芝、3号機と5号機は東芝、4号機は日立が手がけており、ここは言ってみれば東芝・GE連合にとっての「聖地」である。それが吹き飛んだことのダメージは計り知れなかった。

佐々木は、政府・東電の要請を受けて750人もの専門家・技術者のチームを編成して事故処理に当たると共に、メルトダウンを起こして未だに人が立ち入ることが出来ない建屋内に送り込むロボットの開発や、多核種除去装置ALPSの開発と建造にも取り組むが、いずれも失敗の連続で、東芝の技術能力に疑問符が付けられている。ALPSは、毎日300トンずつ増え続ける高濃度汚染水から、現在の技術では除去が困難なトリチウムを除く62種類の放射性物質を吸着・分離させて、一応無害ということになっているトリチウムを含んだ処理済みの水を海に流そうというもの。しかし、これに対しては、トリチウムの生物学的な毒性について全く無害とは言えないという説があり、それを基準値の10倍も含んだ処理水を海に放出することには、専門家から「設計のコンセプトそのものがおかしい」と強い警告がなされており、また実際に放出について漁業関係者などから同意を取り付けられていない。が、それにしても、東芝製のシステムが試運転と故障を繰り返して今以てまともに作動していないのに対して、後から投入された日立製のほうが役に立っていると言われる体たらくである。

>>次ページ 東芝スキャンダル暴発の一因になった「嫉妬」とは?

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け