【書評】一人っ子政策の深刻なツケ。中国、10年余りで絶望の国に

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人口増加防止のため中国で取られた一人っ子政策ですが、その「ツケ」は深刻なようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのは、ピューリッツアー賞受賞経験のあるジャーナリストが、一人っ子政策が中国にもたらした「災禍」を詳細にレポートした一冊。今や覇権国家に躍り出た中国ですが、この先一体どうなってしまうのでしょうか。

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メイ・フォン・著 草思社

今後15年も経たないうちに、北京や上海を除く中国の都市では、統計上、石を投げれば必ず60歳以上の人に当たるそれが男性である確率は高い。「一人っ子政策」がもたらした男女比と年齢構成のアンバランスにより、今後10年以内に中国の独身男性の数はサウジアラビアの全人口を上回り、高齢者の数はヨーロッパの全人口を上回ることになるという予測がある。……ほぼ確実らしい。

問題なのはその規模とスピードだ。中国はいずれ世界最大の高齢者人口を抱える国になり、世界に類のないほど急速なスピードで高齢化が起こる。つまり高齢者を支える労働人口が急激かつ極端に少なくなる。いまも整備されていない年金や医療制度を圧迫することになる。ドイツ銀行の試算では、2050年までに中国の年金不足は7兆5,000億ドルに及ぶという。2011年の中国のGDPの83%だ。

メイ・フォン『中国「絶望」家族』を読んだ。副題が「一人っ子政策は中国をどう変えたか」。前代未聞の社会実験「一人っ子政策中国社会にもたらした災禍を詳細にレポートする。著者はマレーシア生まれの中国系アメリカ人ジャーナリスト。ウォール・ストリート・ジャーナル中国支局記者として、中国・香港の取材を担当しピューリッツアー賞を受賞している。

著者は一人っ子政策が生み出された経緯を探り、数多の出産を訪ねる旅で、政策が民衆に与えたさまざまな影響を明らかにする。政策は凶悪で非人間的ともいえるやり方で強制された場合もあり、さらに爆発寸前の男女比アンバランスから、養子縁組のため乳幼児を人身売買する闇市場に至るまで、多くの有害な副作用をもたらしている。そのリアルなレポートは、読んでいて憂鬱になる。

一人っ子政策は1980年から35年間続いた。中国の急速な経済成長は人口抑制計画とは殆ど関係がない。中国の急成長の一因となったのは人口減少ではなく人口増加なのだ。中国が製造大国として台頭できたのは、一人っ子政策立案以前の1960年代から70年代に生まれた、ベビーブーム世代という安価で豊富な労働力があったからにほかならない。その巨大な労働人口は高齢化が進んでいる。

この高齢者を支えなければならない労働人口は、一人っ子政策によって大幅に、急速に縮小している。2015年後半、人口問題を緩和するため二人っ子政策への移行を公式に発表した。しかし、これはあまりに効果が薄く、あまりに遅きに失した。二人目の許可を申請したのは、資格ある夫婦のわずか1/10であった。一人っ子政策による厳格な人口抑制は、経済の繁栄には不必要だったのである。

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