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まちある調査団

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「ツ」の音の波形(上)と、舌打ちの音の波形を比較し、解説する滝口哲也准教授=神戸市灘区六甲台町、神戸大学都市安全研究センター
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「ツ」の音の波形(上)と、舌打ちの音の波形を比較し、解説する滝口哲也准教授=神戸市灘区六甲台町、神戸大学都市安全研究センター

 夫婦間のささいないさかいに思わず出た舌打ち。「ツッツクうるさいわね」。顔をしかめて妻が言った。えっ? 「ツ」? 舌打ちは「チェッ」「チッ」など「チ」で表現するのが定番のはず。でも、注意深く舌を鳴らして聞いてみると、確かに「ツ」とも聞こえるではないか-。(小川 晶)

 スマートフォンの音声認識機能で確認してみる。何度繰り返しても「聞き取れません」と出る。いぶかる妻にもやってもらったが、結果は同じだった。

 言葉ではない音の解析には、やはり専門的な設備が必要なよう。音声分析が専門の滝口哲也・神戸大都市安全研究センター准教授に相談すると、「実験しようと思えばできますが…」と苦笑いで引き受けてくれた。

 被験者は、滝口准教授と研究室の学生ら計6人。「チ」「ツ」をそれぞれ5回ずつ発音し、それを周波数分析した計60サンプルを元データとした。

 次に、1人5回ずつ舌打ちを録音して周波数分析。それぞれ元データと比較し、周波数が近い順に元データを並べる▽上位5サンプルを抽出▽多い少ないで「チ」か「ツ」かを判定する-という手順だ。学生らに実験の趣旨は伝えていない。

 結果は、舌打ち30回のうち24回が「ツ」。5サンプル全てが「ツ」だったのは2回分だけで、「チ」に近い舌打ちも一定数あった。ただ、最上位のサンプルだけ見ても3対2の割合で「ツ」と出た。

 「『チ』と発するときは口を横に開き、『ツ』はすぼめる。舌打ちの口は、どちらかといえば『ツ』に近いからでしょうか」。滝口准教授は推論する。

 ではなぜ「チ」と表現されるようになったのか。複数の民俗学者に問い合わせたが、「分からない」。ただ、百科事典や擬態語辞典をみると、「ちぇっ」「ちっ」と「チ」で表現する明治から昭和の文学作品の事例が複数紹介されているが、「ツ」は一切なく、長く「チ」が支配的だったことがうかがえる。

 関西学院大の大鹿薫久(ただひさ)教授(国語学)は「『チ』が舌打ちの音として定着すると、『ツ』と聞こえた人でも『チ』と表現し、『チ』を意識して舌打ちするようになる」と説明する。表現は、正しさより相手に伝わることが大事だからだという。

 せっかく舌打ちは「ツ」という実験結果が出たのに…。残念がっていると、大鹿教授がフォローしてくれた。「流行語のように一気に広まる言葉もある。有名な小説家が『ツ』を使うようなことがあれば、『チ』に取って代わるかもしれませんよ」

2014/4/3
 

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