ロシアがアメリカから国家安全保障関連の物品を調達することに対し、制限することを決定した米政府。「英国のスパイ殺害に関与したロシアがその際に化学兵器を使用したから」としていますが、確固たる証拠がない今、なぜ敢えて追加制裁に踏み切ったのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、一連の動きは米政府内の「反プーチン派」の意思であり、「親プーチン」をアピールするトランプ大統領との間に大きな齟齬が生じていると分析しています。
アメリカ、スクリパリ殺害未遂事件でロシアに制裁
トランプとプーチンは7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキで会談しました。会談はいいムードで、米ロ関係が少し改善したようにみえた。
しかし、そう簡単ではないようです。アメリカは、ロシアに追加制裁することを発表しました。なぜ?
<英暗殺未遂事件>ロシア側が反発 米の新制裁発動発表に
毎日新聞 8/9(木)20:54配信
【ワシントン高本耕太、モスクワ大前仁】米政府は8日、英国で3月発生した神経剤ノビチョクを用いた元ロシアスパイ暗殺未遂事件について、ロシアが関与したと断定し、新たな制裁を科すと発表した。
この事件。イギリスでは、「ロシアが化学兵器で攻撃してきた!」と大騒ぎになりました。一方、ロシア国内を見ると、「ロシアがやった」と考えている人は、ほとんどいません。どういうロジックなのでしょうか?
ロシアでは、3月18日に大統領選があった。スクリパリ親子がやられたのは、3月4日。「大統領選の直前に元スパイを殺して、わざわざ自分の評判を失墜させることを、プーチンがするはずない!」というのです。他にも、ロシア人が「あれはうちの諜報ではない」と考える理由がある。
「ロシアの諜報なら、誰にもバレないように、スマートに殺す」
こういう話も結構聞きます(「ロシアの諜報は殺さない」とはいわないのですね…)。実をいうと、同じ理由で、「リトビネンコをロシアが殺した」と信じるロシア人も少ないのです。逆にロシア国民のほとんどは、「あれは、イギリスの自作自演だ」と信じているようです。
今回の制裁は化学・生物兵器に関する米国内法に基づき、ロシアがエンジンや電子回路部品など国家安全保障に関わる物品を米国から調達することを制限する。議会への通知期間を経て、今月22日にも発動する。
3月の暗殺未遂事件を受け、米国は60人の駐米ロシア外交官を追放しているが、この案件での経済制裁発動は初めて。米国務省は声明で「ロシア政府が生物もしくは化学兵器を使用したと結論付けた」と説明。ロシアにも通告したという。
(同上)
「ロシアがエンジンや電子回路部品など国家安全保障に関わる物品を米国から調達することを制限する」
これって、「ロシア経済に打撃なのかな?」と思いますが。しかし、制裁発表を受けて、ルーブルもロシア株も大幅に下げました。
今回の事件では英当局が国内の監視・傍受網をフル活用し、複数のロシア人の関与を断定したとされる。
(同上)
イギリス司法当局は、「ロシア人容疑者を特定し、ロシア側に引き渡しを求める」と報じられています。