テロの悲劇。なぜスリランカ?と考えると背筋が凍る答えにたどり着く

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海外のメディアのニュースを、日本のマスコミではあまり報じられない切り口で本当はどういう意味で報じられているのか解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。今回は、スリランカで起きた大規模な爆発事件の背景について解説しています。

テロの悲劇。なぜスリランカかと問われれば

Sri Lanka attack death toll rises to 290.

訳:スリランカが標的となり、死者は290名に至る(CNNより)

【ニュース解説】

先日、ソウルで知人と夕食を共にしました。そのとき、夜一人で散歩ができ、ホテルに金属探知機も置かれていない日本や韓国の安全について話し合ったことがありました。

そもそも韓国は長年に渡って北朝鮮からの攻撃の脅威に晒されてきたはずです。
しかし、彼を含め、多くの人が、北朝鮮の脅威については、韓国人は別に差し迫ったことではないと思っています。

「韓国も日本と同じように平和の中で人々の心が麻痺しているのですよ。朝鮮戦争が終結して以来、今まで、何度もいろいろなことが起き、そして何度も統一について話がでました。でもその度に結局何も変化なく、現在に至っています。北朝鮮のことは、あまり日常的になりすぎて、誰もが慣れっこになっているのですよ」

その人はそういいます。
実は、以前インドで知人にパキスタンのことについて尋ねたときも、同様の答えが返ってきたことを覚えています。

「これは日々の生活の一部のようなものなんですよ」

そのインド人はこのように話していました。

そのインド人と出会って間もなく、ムンバイでパキスタンから侵入してきたテログループが駅やホテルで破壊と殺戮を繰り返しました。 2008年11月のことでした。当時、海上からムンバイの港に秘密裏に上陸したテログループが、駅やホテルで爆破、発砲を繰り返し、3日間で170名以上の犠牲者がでたのです。
そして、今回インドの隣国スリランカで同じような規模のテロ事件が起こったのです。詳細はまだ見えてきませんが、それが組織的な犯行であったことは間違いのない事実です。

なぜスリランカのような仏教国がという疑問もわくでしょう。CNNの記者がその質問を専門家に投げかけたとき、なぜニュージーランドのような平和な国で、そしてなぜノルウエイのような静かな国でと、過去にも同じ質問を受けていると答えていたことが印象に残ります。 テロ行為はあえてそうした場所を選ぶことで、人々に脅威を与えるのかもしれません。

韓国の場合、北朝鮮からの侵入者による戦闘行為はしばらくおきていません。
とはいえ、2010年11月北朝鮮に近いヨンビョン島が北朝鮮から砲撃を受け死傷者がでたこともありました。また、テロ支援国家とされた北朝鮮から武器や麻薬がテロ組織に輸出さないという保証はどこにもありません。

「しかし、北朝鮮が核弾頭を持っていることの本当の理由は日本やアメリカに対してではないのです」

韓国の知人はそう解説します。

「北朝鮮は中国の影響力からの離脱を巡ってもがいているのです。韓国を含め朝鮮半島は日本が植民地にしていた時間より遥かに長い時代を通して中国から強い影響を受けてきました。朝鮮戦争の結果、南北に分断された後は、特に北朝鮮は中国の支援なしには存在し得なかったのです」

実際、北朝鮮の存亡の鍵を握っているのが中国であるという彼の指摘は当たっています。であればこそ、最終兵器である核兵器を維持することは、北朝鮮が中国に無言の脅威を与えることになり、中国も北朝鮮を懐柔せざるを得なくなるというわけです。
さらに、北朝鮮は保険をかける意味でロシアとの交流を促進します。アメリカとしては、そんな北朝鮮をアメリカに振り向かせるために、スタンドプレイで臨もうと首脳会談を2度も行ったものの、大きな成果は得られなかったわけです。

テロは大国の思惑に蹂躙された民族や宗教の中で育成されます
中国が支配を強めるチベット族やウイグル族。日本の支配を経て独立した後にアメリカ、それに中国とロシアの思惑がぶつかる朝鮮半島。

そして、イギリスによる植民地化を経てアメリカの利権もからみ、多くの難民を生み出した中東。そんな中東と同じ宗教を信奉するパキスタンと、宗教を巡って激しく対立するインド。
こうした、複雑な国際関係によって犠牲となった人々の間に積もる怒りがテロの温床となるわけです。

そして、彼らの怒りはそもそもこうした混乱を生み出した列強や彼らの思惑を支持する豊かな国に向けられます
同時に、豊かな国の中にそうした鬱血した怒りに晒された人々が行き場を失い難民や移民として流れ込みます。
その意識の対立が、今度は豊かな国の中に、中東などからの移民への排除を求める新たなテロの温床を作り出すのです。

その結果、一見平和でテロとは無関係な国家や、地域が惨事に見舞われます。
ノルウエイやニュージーランドで反ムスリムを標榜するテロ行為がおき、その反動がスリランカに飛び火します。
外国人の多く泊まるホテルやキリスト教の教会が、ちょうどニュージーランドでおきたイスラム教徒に対するテロ行為への報復のように襲われたのです。

豊かで一見平和な国。そう書いたとき、ふと気付いた人もいるかもしれません。その典型とも言える国が日本です。韓国の人々ですら慣れっこになっている平和に最も浸っている日本。
日本人に知ってほしいのは、日本だけは例外だと思うことが自惚れに過ぎないという事実なのです。

image by:Matyas Rehak, shutterstock.com

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