新元号「令和」の出典となったのは「万葉集」。今まで万葉集に興味はなかったけれど、これを機会に手に取ってみたという方も多いのではないでしょうか。今回の無料メルマガ『1日1粒!『幸せのタネ』』では著者の須田將昭さんが、万葉集とはどのようなものなのかを紹介するとともに、その魅力について記しています。
古代の人々の感性
新元号「令和(れいわ)」が発表されて20日ほどが経ちました。発表された瞬間の沸き立つような気持ちも少々落ち着いてきた頃でしょうか。
今回のことで、出典となった『万葉集』が注目され、書店の店頭から消えた、と聞いております。
『万葉集』も簡単に読めるものではないので、読み通すのは大変でしょうが、それでもいいのです。多くの人の手元に『万葉集』がある、ということがすごく嬉しいことのように感じています。
さて、この『万葉集』ですが、ご存知の通り、日本に現存する最古の和歌集で、7世紀後半から8世紀前半ぐらいの歌が集められたとされています。奈良時代は、平城京遷都の710年からと考えますから、『万葉集』は、奈良時代の少し前ぐらいから。つまりほぼ「奈良時代の様子」と思っていいでしょう。
約4,500首もの和歌が所収されていますから、きっと人それぞれに心に響くものと出会えると思います。『万葉集』を買われた方は、是非「何か好きになれる歌があるといいな」という感じで触れていただければと思います。
ということで、私も一首ご紹介しましょう。
額田王思近江天皇作歌一首
君待登 吾戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹
額田王 近江天皇を思ひて作る歌一首
君待つと 吾が恋ひをれば 我がやどの
簾動かし 秋の風吹く
額田王が、近江天皇(天智天皇)を思って作った歌
君(天智天皇)を恋しく待っていると、秋の風が
簾を動かしていった
という歌です(最初は万葉仮名、次が読みやすく書きくだし、次が簡単に私が訳したものです)。
この「簾動かし 秋の風吹く」が古代の人々の思いというか、心の有り様を感じさせます。
この秋の風は、自分が恋しい、会いたいと思っている相手の「訪れ」を知らせてくれている、という歌なのです。
恋人が自分のところに訪ねてくれるということを秋風の動き、簾の動きから感じるというのは、今の時代の私たちにはない感性です。古代の人々は、自分の思いや人の行動が自然の動きと一体化しているという感性を持っていたようです。
そういうなんとも素朴な感性が詰まっているのが『万葉集』という歌集です。ぜひこれを機会にまた手を取っていただければと思います。