五木寛之が悟った折り返し点を過ぎた人生を楽しむ「下山の思想」

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人の一生は、厳しい上り坂が続く登山に例えられることが多々あります。しかし、気力体力のピークを超えた後の「人生の下り坂」にこそ登りの時には味わえない喜びがあるとするのは、直木賞作家の五木寛之さん。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、五木さんと鎌倉円覚寺管長の横田南嶺さんの対談を通して、「下山の思想」を紹介しています。

下りの人生にも味わいがある──人生を豊かにする「下山の思想」

数々のベストセラーを世に送り出してきた作家・五木寛之さん。禅の一道を歩み、鎌倉円覚寺管長を務める横田南嶺さん

弊誌連載でお馴染みのお2人が語り合う、人生100年時代に必要な「下山の思想」とは??


横田 「五木さんを前に申し上げるのもなんですが、私もこの頃は、人生の下り坂に差しかかったことを実感することがあるんです」

五木 「えっ、全然そういうふうには見えませんけれども(笑)。失礼ですが、横田さんはいまおいくつなんですか」

横田 「今年54になります」

五木 「うーん、まさに人生の盛りじゃありませんか(笑)」

横田 「とはいえ、道元禅師は53で亡くなっていますからね。

私はその道元禅師の、坐禅は安楽の法門であるという教えを拠り所に、これまで一所懸命坐禅に取り組んでまいりましたし、いまも20代の修行僧たちと一緒に坐っています。けれどもこの頃は、結構くたびれることもあるようになりました。

1週間ほぼ寝ずに坐禅だけをする時もあるんですが、後でガタガタッと体が弱って寝込んでしまったり、だんだん若い人たちについていけなくなりつつあるのを痛感するんです。

これではいけないと思いましてね。いろいろと試行錯誤をして、去年から今年にかけて自分の坐禅を180度変えたんです」

五木 「ほう、どのように変えられたのでしょう」

横田 「これまでは意志の力で坐禅をしていました。腰をしっかり立てたり、吐く息を長くしたり、精神を丹田に集中させたり、いろんなことを意識しながらやってきたんです。けれども、そういう意識的にやっていたことを全部やめてみました

そうやって全部手放してただ坐っていると、心の内から喜びが湧き上がってきたのです。それまで奥歯を噛み締めて、鬼の形相で坐禅をしてきましたが、ニコニコと微笑みがこみ上げてきました。私はそこで、すべてを手放して微笑みながら坐る坐禅というのもあるのではないかと発見しました」

五木 「それはまさに自然法爾ということですね。法爾というのは、楽しみであり、喜びであると思うんです」

横田 「ですから、泰道先生には『精いっぱい生きよう』と言われましたけれども、その「精いっぱい」に、「楽しんで喜んで」が加わるような心境になってまいりました。そして、人生の下りには下りの景色の味わいがあるのではないかと思い始めたところです」

五木 「私は昔から『下山の思想』ということを盛んに言ってきたんですけど、山を登っていく時の姿勢と、下りていく時の姿勢では重心のかけ方も違いますし、見ている世界も違いますよね。

必死で登坂している時は頂上を見ているだけで、他のことは考えられませんけれども、下山は一歩一歩踏みしめながら、優雅に下っていける。昔のことに思いを馳せることもできるし、遠くを眺めて、あぁ町がある、村がある、海が美しいって感動しながら下りていくこともできる。下山には、登りの時には味わえないそういう喜びもあるんです」

横田 「今後は、そういうところにもっと注目していく必要がありますね」

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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