Amazon等のネットショップに押され、リアル書店はかなり厳しい状況に置かれているようです。そんな中、北海道のとある小さな書店には注文が殺到しています。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者でMBAホルダーの青山烈士さんが、ネットショップには不可能な「差別化」を図り顧客の心を掴んで離さない「いわた書店」の戦略・戦術を分析し紹介しています。
顧客一人ひとりへの深い理解
今号は、注文が殺到している小さな「書店」を分析します。
● いわた書店
戦略ショートストーリー
面白い本を探している方をターゲットに「店主である岩田社長が持つ独自の選書ノウハウ」に支えられた「自分に合った本と出合える」等の強みで差別化しています。
面白い本を選書してくれるだけでなく、店主である岩田社長が顧客一人ひとりに寄り添ってくれることが顧客から支持されています。
■分析のポイント
Amazonに代表されるネット企業に押される形でリアルな書店は厳しい状況のようです。
なぜ、厳しいのかというと通常、新書であれば、ネットで買っても、リアル書店で買っても価格差はありませんので、より便利なネットを選ぶ方が増えていることが一つの要因といえます。
要するに、リアルとネットで同じ本を同じ価格で置いているなら、ネットで買うということです。
ネット企業の躍進や顧客の購買行動の変化は、リアル書店にとっては、商売を難しくする環境変化ですが、リアル書店からすると外側の要因です。
では、内側の要因は何かというと、いわた書店の店主である岩田社長は気付かれたようですが、書店の原点である「面白い本」を顧客に提供できてないことがあげられます。
ここでいう「面白い本」とは、いわた書店の場合、5年後、10年後にも価値が変わらない力のある本、次世代に受け継がれる本、ということになります。
ネット書店や大手書店でよく売れるいわゆる話題の本、売れ筋の本は、「面白い」とは思いますがいわた書店の「面白い」の定義に合うものは少ないでしょう。
つまり、いわた書店の場合、ネットや大手書店と品揃えをずらす(変える)ことで顧客への提供価値を変え、そのことが差別化につながっているわけです。
いわた書店は、自社の定義に合う「面白い」本を店舗に並べていて、人気に火をつけたのが、これらの「面白い」本を顧客一人ひとりに合わせて選書する「一万円選書」サービスです。
この「一万円選書」のヒットは、いわた書店の定義に合うような「面白い」本を消費者が求めていたことを示していると思います。
Amazonでも、利用者の購買履歴に応じて利用者の好みに合いそうな書籍をレコメンド(おすすめ)してくれますが、いわた書店の「一万円選書」の場合、当選者のカルテをもとにカウンセリングしながらその人にいま必要な本を選書していますので、レコメンド(おすすめ)の質が大きく異なります。
ここでいう質とは、顧客の「好み」や「人となり(人柄)」の理解度と言い換えられます。
どのようなビジネスでも、基本的に顧客ニーズを理解していなければ、よい提案ができないですよね。
顧客の読書歴からも好みなど様々なことが見えてくると思いますがカルテ(アンケート)を通して、「人生でうれしかったことや苦しかったこと」などその人の人生についてまで聞くことで、より個人への理解を深めることができるのだと思います。
この一人ひとりへの深い理解と、プロフェッショナルな店主の選書ノウハウが組み合わさることで、ネット書店や大手書店との差別化につながる大きな価値になっています。
今後の「いわた書店」、ひいては、多くの小さなリアル書店の動きに注目していきたいです。