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中島聡インタビュー「通勤の必要がない社会はそこまで来ている」

去る8月24日、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で“Windows 95の設計に関わった日本人”として知られる世界的エンジニアの中島聡氏と、“世界初のモバイルインターネット i-mode を世の中に送り出した男”こと夏野剛氏の2人が発起人となり、NPO団体「シンギュラリティ・ソサエティ」が発足しました。先日お伝えした発足イベントに先立ち、MAG2 NEWSでは中島聡氏への単独インタビューを敢行。そこで中島氏の口から直接語られたのは、日本や世界の「近い未来」に関する興味深いお話ばかりでした。

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シンギュラリティ・ソサエティが成功するカギとは

ーーまずは今回、シンギュラリティ・ソサエティを立ち上げたきっかけ、なぜ今このタイミングでの立ち上げになったのかを、教えていただけますか?

中島:そうですね。きっかけは色々とあります。

そもそも私自身はバブルの全盛期、NTTが世界一の株価総額だった時に、わざわざそのNTTを辞めて、当時無名のMicrosoftというベンチャー企業に移ったんです。まさに「失われた30年」の一番最初の時に、僕はその良いほうにポッと移ったわけです。

その当時にそういう行動をとるというのは、普通に考えるとものすごくリスクが高かったはずなんですが、今から考えれば全然リスクが高いわけじゃない。だから、もっとそういう動きををする人がいてもいいはずなのに、実際のところは日本において人材の流動化といったものは、あまり起こらなかったんです。こういう企業の新陳代謝が進まなかったことが、いわゆる「失われた10年」を20年に延ばし、またその20年がさらに30年へと延びている原因じゃないかと思っていて、そういう状況を何とかしたいとは常々考えていたんです。

その手の話は、自分のメルマガでもずっと発信してきたんですけれど、ただメルマガって一方通行なものなので、「何か一緒にやろう」とか「世の中を変えよう」という行動には、なかなか結び付かないわけです。私の投げたメッセージを受け取った人が動けばいいのかもしれないけれど、実際そういう人は大企業の中などにいて、日々の業務に忙しくてなかなか動けないということもあるでしょうし。そういう人たちに、ある良い意味の刺激を与えて、ゆくゆくはそういう人たちが集まって会社を創るとか、もしくは会社の中を変えていくとかということをするには、メルマガで訴えるよりも、双方向のコミュニケーションができるオンラインサロンがいいんじゃないかなというのは、以前から考えていました。何だかんだで2年に1回ぐらい会うホリエモンにも、「サロンをやるといいよ」と言われてましたし。

ただ、今のメルマガの読者からメンバーを呼び込んで、心地いい雰囲気のなかでサロンを始めるのもいいんだけれど、よくありがちなサロンでお金を取って、その資金でやっていくいうスタイルが、私にとってはどうもやりにくいというか、潔くないなと感じていたんです。そこで、どうしようかと悩んでいた時に、今年の4月が5月ぐらいのことだったんですが、たまたまお会いしたメルマガ読者の方に「NPOをやりませんか」と言われたんです。なるほど、確かにNPOとしてサロンをやれば、それは別に営利じゃないわけで、集まったお金は基本的に会員に還元、もしくは社会に還元すればいいわけですよね。

それにNPOという立ち位置で行動した場合、例えば様々な社会問題を解決するために、政府や地方自治体などに働き掛けないといけないケースもあると思うんですが、そういう時に営利団体ではなくNPOだと、とりあえずは話を聞いてもらえるんじゃないかということにも気が付いたんです。

そこでNPOを立ち上げて、そこでサロンをやると。サロンに集まったメンバーと一緒に知恵を絞って、例えば日本の少子高齢化の問題に取り組むんだり、自動運転社会をデザインするとかといった、具体的な行動を起こそうと考えたんです。

ーーそれにしても「少子高齢化の問題」や「自動運転社会のデザイン」など、扱おうとされているテーマがどれも壮大で、そこにまず驚いたんですが……。

中島:でも、みんなが「マズイな」と思っていながらも、誰もちゃんと動けていないことって、世の中にはいっぱいあると思いませんか。

例えば日本の少子高齢化の問題は、もう目前に迫っているじゃないですか。多分このまま10年、今のままで突き進んでしまうと、さらに人口が減っていって、地方のインフラはいよいよ成り立たなくなる。そうすると、鉄道が廃止になる、バスの本数は少なくなる、年取った老人はクルマを運転できないと病院にすら行けない。……そんな「2030年問題」とか「35年問題」と呼ばれるような状況が、もうすぐなんですよ。

そういう問題というのは、2030年が来てから解決すればいいわけじゃなくて、もう今から始めなきゃいけない。でも、実際のところはまったく始められていないんです。そのうえ、その始められていない理由というのが、例えば霞が関が力を出し過ぎていて、地方は補助金に頼り切ってるだとか、あるいはその補助金を狙ったコンサルティング会社が入り込んでいるだとか、果てはもう天下りがあるだとか、そういうつまらない理由で、色んなことが解決されていないということが多いんです。

そこで我々がNPOという立ち位置で、要は「ウチは儲けに来たんじゃないんですよ」というスタンスでポンと立って、「あなたはこうしなさい」「こちらはそうしなさい」という風にやっていけば、ひょっとしたら社会は変わるんじゃないかなと。だから、野望として大きい話のように思われるかもしれないけれど、できないことはないような気がしています。

ーーそういう風に解決するのにかかる時間として、やはり10年ぐらいは見たほうがいい、今から始めればギリギリ間に合う、といういうことでしょうか。

中島:はい。少子高齢化によって地方が崩壊するという、手遅れの状態になってしまう前に始めないといけないと思います。

それに日本の社会が抱えているの少子高齢化だけじゃなく、ゆでカエル状態の日本企業……経団連の年寄りたちが仕切っているような大企業が、競争力を失ってどんどんと潰れていってる状況というのも、大きな問題ですよね。今後はそういう会社から溢れる人間がどんどん世の中に増えてくると思うんですが、要はすっかり会社人間になってしまったその人たちが、転職先を探すにしても起業をするにしても、外のネットワークが全くないまま、世の中に溢れてしまう。そういう状況になるというのも、目に見えているわけで、そういう状況も何とかしたいなというのもあります。

ーー今は大きな会社の中にいる人たちも、社外にネットワークを作りましょうよ、というのも一つの目標なんですね。

中島:そうですね。現時点ですでにシンギュラリティ・ソサエティに参加している方もいるんですが、もういろんな人が入って来ています。例えばソニーとかパナソニックとかに勤めている、いかにも私のメルマガを読んでそうな人たちから、お医者さんや地方自治体の役人さんや大学教授まで……。そういった人たちと出会えるだけでも、今までと全く違う経験となるわけですよね。で、ソサエティのなかでそういう人たちと、一緒のプロジェクトに取り組むことで、だんだんと信頼関係ができれば、「将来、この人と働きたいな」という人物との出会いもあるかもしれない。

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あるいは「本当はこれをやりたいんだけど、とりあえず安定した仕事があるからできない」といった状況の人が、シンギュラリティ・ソサエティを通じてプラスに解き放たれて、「じゃあ、これをやろう」という風になって欲しいというのもあります。今後ソサエティのなかで、いくつかのプロジェクトが立ち上がっていくと思うので、そのなかで出会った仲間同士が、それこそ全然関係ないところでベンチャー企業を興すのも、僕はアリだ思っています。

もちろん、ベンチャーを興すのが唯一の目的じゃなくて、私がやりたいと考えているアイデアの実現を手伝ってくれるのもいいですし、あるいは「こういうプロジェクトを自分の会社で抱えているんだけれど、どうもイノベーションが起こらない」というのを、企業秘密に引っ掛からない程度にソサエティ内で相談してもらって、みんなでブレストした結果を、自分の会社に持って帰って実行するのも構わないと思っています。

ーー今後、このシンギュラリティ・ソサエティが活動していくにあたって、どういった点が成功のカギになっていくとお考えでしょうか。例えば先ほどの“手遅れになる前に……”という話だと、スピード感はすごく大事になってくるような気がするんですけど……。

中島:そうですね。やはり、具体的な問題を解決するということを、なるだけ早くやっていきたいところですね。

例えば、少子高齢化で過疎化していく地方に住む老人たちの移動手段を、今後何とかしなきゃいけないという問題があるじゃないですか。でも、そこにいきなり自動運転車を導入しようという話にすると、突然長い話になっちゃうわけです。本気で自動運転車を入れようとすると、まず最初にものすごくお金がかかる上に、技術的・法的な問題点をいくつも乗り越えなきゃいけないので、結局は10年以上の期間がかかってしまうのは目に見えているわけです。

そんなことを長々とやっていてもしょうがないので、すぐに実現できる解決策として私が今考えているのが、例えばおじいちゃんが病院に行きたいなと思った時に押す「病院ボタン」。各家庭にアマゾンダッシュボタンみたいなのがあって、それを押すとクルマが迎えに来て、病院まで行けるというものを、地方自治体が配りますと。それが、ひょっとしたら10年後や20年後には自動運転車が来るかもしれないけれど、今の段階では人間が運転するクルマでやればいいじゃないですか。おじいちゃん側からすれば、自動運転でも人間が運転していても、サービスとしては同じだから。

ーーまずはそこで実績というかひな形を作って、その次の段階で理想形にもっていくと。

中島:そうです。そもそも乗り合いバスや乗り合いタクシーって、みんなで連絡を取り合って、病院に行く時間を一緒にしようみたいなことをしなきゃいけないのが面倒じゃないですか。そういう問題を、まずはインターネットとかの技術を使って解決してあげると。そういう会社を、別に私が立ち上げなくてもよくて、例えば地方自治体の第3セクターとかが立ち上げて、そのビジネスの設計とソフトウエアをシンギュラリティ・ソサエティが提供すると。それを実用化させているうちに、いよいよ自動運転車の時代がやって来たら、それに取り換えていけばいいだけの話なので。

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確かに地方自治体の人を説得するだとか、お金をどこかから引っ張ってくるとかというのは、そんなに簡単な話じゃないと思います。ただ、どこかの地方自治体のパイロットプロジェクトとしてスタートするぐらいだったら、それこそ1年以内ぐらいに実現できてもおかしくないと思っているんです。そういうところから着実に、10年先の問題を解決するため、今ある小さな問題をひとつずつ解決していきたいなと。

ーーそうやって、ちゃんとストーリーを作ったうえで、提案していくわけですね。

中島 そう。そこまで持っていってあげないと、今の地方自治体の人からは、こういうアイデアってなかなか出てこないと思うので。だから「こういうふうにテクノロジーを使えば、こんなに安くできますよ」みたいなのを、僕らが提案してあげて、できればオープンソースでソフトウェアも作ってあげると。基本的に、どこの地方自治体でも似たような問題を抱えているので、ソフトウェアに関しては共有できますよと。

要は「なぜ立ち上げたのか」という実績を、まずは作っていく。シンギュラリティ・ソサエティに参加したメンバーとしても、「こういうことやった」という感覚があったほうが楽しいでしょうし。それに、こういうことをやっていると、実際にビジネスが生まれる可能性もあるわけです。NPOとして最初はやっているけれど、全国に地方自治体はもう何百何千とあるわけで、それらに対してサービスを提供していくんだったら、「それはもうスピンアウトして、営利企業としてやりましょう」みたいな流れは、別に全然あっても構わないと。

ーーゆくゆくはメンバーが巣立っていくみたいな……。

中島:そうですね。……僕もシンギュラリティ・ソサエティを立ち上げる前に、ベンチャーキャピタルをやったほうがいいのか、あるいはインキュベーションをやったほうがいいのかとか、いろいろ考えたんですが、やっぱりNPOという形がいいなと思ったんです。やっぱり今は、オープンソースの時代じゃないですか。だから、ビジネスのローンチとかもこういう風に立ち上げて、会社という形になる前の段階のインキュベーション……プリインキュベーションと呼んでもいいですけれど、それをシンギュラリティ・ソサエティでやると。それでプロジェクトとして立ち上がったら、ビジネスとして独立させると。そんなイメージですね。

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