ハゲタカから企業を守れ。「内部告発」が日本経済のため必要な訳

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我が国ではほとんど機能していない「内部通報制度」。崩れつつあるとはいえ未だ終身雇用制が幅を利かせる現状では、内部告発など行おうものなら石もて追われる可能性が強く、そのハードルは「高止まり」状態となっています。これに危機感を抱いているのは、米国在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「内部告発が日本経済のために必要」としてその理由を記しています。

内部通報制度はどうして機能しないのか?

日刊工業新聞のサイト「ニュースイッチ」によれば、コンサルティング・ファームの「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー」がまとめた「企業の不正リスク調査白書」によると、「9割以上の企業が内部通報制度を策定している一方で、半数以上の企業で内部通報の平均利用件数が年0~5回にとどまっていることが明らかになったそうです。

● 内部通報制度が形骸化、上場企業の利用は年0―5回にとどまる(ニュースイッチ)

この数字ですが、勿論大変に低いわけですが、まあこんなものかという感じもあります。というのは、終身雇用制がまだ機能している日本の「従業員共同体」では、どう考えても内部告発へのハードルは高いからです。

まず、サラリーマン社長が経営している企業では、次の社長候補として競っている専務・常務クラスが大なり小なり派閥を作っています。その場合、経理部門、法務部門、さらには監査部門などにも派閥の子分を入れているはずで、仮にA常務派が違法行為を行なっていたとして、これを告発するとなるとA常務派との暗闘になるのは避けられません。

そんな中で、何の政治力もない一介のヒラ社員が「内部告発」をしても、「それを受け止めて企業を浄化しよう」などと全員が一致して考えるということは、まずあり得ないでしょう

一方で、オーナー経営の場合は、積極的に内部告発が歓迎されるかもしれませんが、告発の対象がオーナー一族に向けられるとなると、告発が握りつぶされたり、告発者が迫害される可能性は、サラリーマン経営者の場合よりひどいことになると思われます。

とにかく、告発者が社会的に保護されるためには、労働市場がもっと流動化しないと難しいです。終身雇用の中で、告発の効果を出しつつ、告発者を守り切るのは非常に大変ですから、告発者は告発した会社の終身雇用システムから外れる覚悟で「株主と社会正義のため」に告発を行い、そのような人材は「もっとまともな他社が評価して採用するようにすればいいのです。

ですが、この案もお話ししていて虚しい感じがします。というのは、そんなに立派な会社など、それぞれの産業にあるはずもないし、現実はむしろ逆だからです。昔、組合を立ち上げた人物が嫌われたように、今は、「どこかの会社で内部告発をした人物は、危険だから採用しないようにしよう」という暗黙の動きがあるように思われるからです。

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