日本企業が既得権を断ち切らないと日本経済は終了する当然の理由

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もうずいぶん以前から、女性活躍推進という掛け声や一億総活躍社会という言葉を耳にし続けていますが、実感を持って受け取れている方は少数かもしれません。なぜ日本社会ではこういった「改革」がなかなか進まないのでしょうか。アメリカ在住の作家で社会システムに関しても詳しい冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で詳しく分析・解析をしています。

変革に30年かかっては、国も経済も滅亡

2015年の話です。この年は、男女雇用機会均等法が施行されて30年だったそうですが、にも関わらず、女性管理職がなかなか増えないというので、財界も政府も「困った困った」などと言っていました。そこで原因を探すことになり、女性自身が出世を望まないのが悪いというような無責任な印象論が横行したものです。

この問題、原因はハッキリしています。均等法第一世代で入った女性総合職は少ないのです。どの企業も、現在のように総合職の女性比率が5割近くということはありませんでした。せいぜい1割、依然として多くの女性が一般職という「管理職候補から外れた」採用だったのです。また、製造業など前近代的な業種では当初の採用はゼロでした。

管理職候補の母数が少ないかゼロなのですから、30年経っても女性管理職は増えるはずがありません。つまり、日本の多くの企業は年功序列人事を行っていますから、入社20年で42から3歳になったら課長という「お年頃」という考え方をするわけで、そこに差し掛かる女性の母数が増えるにはまだ何年もかかるからです。

政府や財界も、女性管理職が増えなくて「困った」というのなら、女性に限って昇進スピードを上げるとか、他企業からスカウトして抜擢するとか、やればいいのです。ですが、日本の終身雇用人事の中では、「どんなにブラックでも我慢すれば管理職にも役員にもなれる」というファンタジーが、モチベーションの原動力となっており、同時に「同期のアイツには負けたくない」的な、「ダークな嫉妬心」を抱えて仕事をしている人も多いわけです。

また「管理職」というのは機能ではなく、全人格的に偉いという意味不明な封建主義もあって、敬語(尊敬語と丁寧語)を使って対応しなくてはならないとか、これまた意味不明な習慣もあるわけです。

そんな中で、女性だけドンドン管理職にさせたら、多くの男性社員は嫉妬心で壊れてしまうでしょう。そのことが分かっているので、どの企業も「女性管理職の増加」というのは「30年かけて改革」ということにしているのです。

問題は、女性管理職だけではありません。

例えば、大学の世界では「若手の研究者が悲惨な境遇に陥っており、「博士号なんて取るんじゃなかった」という悲劇が増えています。大学教員などの研究職の数よりも、博士の数を増やしてしまったからですが、これも文科省が「アメリカの真似をして、博士号を出したり、教員になるには見習い期間を置くと活性化になる」などと考えたことも一因です。

博士号を取ったのに困窮している人の問題はさておき、そうした改革の結果として大学の研究者の質が向上しているのであれば、ある程度は改革の評価はしなくてはいけないでしょう。ですが、問題はここでも時間がかかっているということです。

90年代までの大学の世界では、教員は終身雇用でした。ですが、急にそこに「期限を切った見習い期間」とか「激しい競争」が持ち込まれても、終身雇用の保障された「世代が上のセンセイ達」の既得権は全く手をつけることはできなかったのです。その結果として、大学の改革には時間がかかっています。

多くの教員が海外で研究したり、海外で学位を取ってきた人間になる、改革の結果そうした方向にはなっていますが、その結果として大学が国際的な競争力を獲得するまでにはやっぱり30年はかかるわけです。

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