参院選に暗雲。プーチン談話で判った、北方領土返還交渉の大失敗

takano20190318
 

プーチン大統領も出席する今年6月のG20のタイミングで、北方領土問題を一気に進展させたいとする日本政府ですが、暗雲が立ち込めているようです。ジャーナリストの高野孟さんは今回、自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、「北方領土問題が早期に進展することはない」というプーチン大統領のオフレコ会談での発言を紹介するとともに、4島どころか2島返還すら危うい状況となった根本原因に、安倍首相と日本外交の体たらくを挙げています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年3月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

失敗に終わった安倍「北方領土」交渉──“言葉遊び”で国民を騙そうとするなんて

ロシアの日刊経済紙『コメルサント』によると、プーチン露大統領は3月14日に行われた企業経営者らとの会合で、北方領土をめぐる日露はすでに失速し早期に進展することはないとの見通しを語った。

この会合は非公開のものだったが、出席者の1人が同紙に対して、「日露交渉は行き詰まったのかという問いに対するプーチンの答えを明らかにした。その意味では間接情報であるため、日本のメディアの扱いは大きくなく、16日の朝刊段階できちんと記事にしたのは東京新聞のみ。同日の夕刊で日経と読売がやや小さ目にフォローした。

しかしこれが事実とすれば、6月G20の機会に来日するプーチンを捉えて「2島返還」論で一気に基本合意に持ち込み、それを7月参院選の目玉に仕立てようとした安倍晋三首相の思惑は、すでに破綻したということである。安倍首相の進退に関わるような重大ニュースで、追跡取材をした上で各紙が第1面トップで扱ってしかるべきと思われるがそういう扱いになっていないのが不思議である。

プーチンは日米安保からの離脱を要求?

プーチンは、交渉失速の理由を2つ挙げた。第1に、日米安保条約の壁である。安倍首相は返還後の島々に米軍施設を設置させないとプーチンに語ったが、それは単なる口約束にすぎず、日本国内のどこにでも米軍基地を設置できるとしている日米安保条約の下では、日本が米国に「それを許さない手段を持っていない」とプーチンは指摘した。ということは、日本が日米安保条約を離脱して出直してこない限り領土交渉はそもそも始まらないということなのである。

第2に、北方領土の住民の99%が日本への領土引き渡しに反対していることである。それは当たり前で、これらの島々はすでに4分の3世紀に渡ってロシアの実効支配下にあり、色丹に3,000人、国後・択捉には約1万4,000人のロシア人が生活を営んでいる。このうち「2島返還」が実現した場合に直接に問題となるのは色丹の3,000人だが、日本領になったからと言って、彼らを全員強制退去させる訳にはいかないし、何らかの特別資格を与えて引き続き在留を認めることになるのだろうが、当のロシア人住民にしてみれば、そんなややこしいことには巻き込まれずに、今のままの生活を続けたい

こんなことは最初から分かっていることで、にも関わらず安倍首相が敢えて「2島返還」論に立って日露交渉を再起動させようと発起したからには、それらの難題について何らかの秘策なり腹案なりがあって根回しも進んでいるのかと思いきや、実は何もなかったという日本外交の体たらくが、このプーチン談話で赤裸々になったのである。

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