フィリピンで死者300人超。世界で麻疹が流行している根本的理由とは?

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国立感染症研究所の発表によれば、2019年の麻疹の感染者数は、6月2週時点で617例と、昨年1年間で282例の倍以上を記録しています。世界では、フィリピンが深刻な状況で、300人以上の死者が出ていると報告されています。なぜいま、麻疹の流行がこれほど拡大しているのでしょうか?メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で現役医師の徳田先生は、フィリピンでの感染拡大は、ワクチン接種率の低下が原因だと指摘。その背景にはフェイク情報があり、日本においても医療不信の要因となっていると注意を呼びかけています。

世界で流行する麻疹

世界各地で近年では記録的な規模の麻疹の流行がみられています。世界全体で、2017年には、前年と比べて麻疹ケースが約30%も増えました。フィリピンでは2017年に約2400人の麻疹患者が発生し、2018年の患者数は1万8000人以上となりました。2019年はさらに拡大しており、300人以上の死者が出ています。そのほとんどが子供たちです。

その原因は予防接種を受ける割合の低下です。フィリピンでの麻疹の予防接種割合は、2014年で88%でしたが、2017年には73%と低下、2018年には55%まで落ち込んだのです。死亡者のうち約80%は未接種児でした。予防接種を受けさせなかったのは、フィリピンの親たちの判断でした。 フィリピンで親が子供に麻疹の予防接種を受けさせない事態が広がったのは、2017年に起きたデング熱ワクチンに対する副作用疑いケースの不確実情報が広がったのが発端でした。ある政治家は、ワクチン推進者を政治的に貶めようとして、効果のあるワクチン全般の有効性をも批判するようになりました。それはフェイク情報でした。しかし、親たちは政治家や一部メディアの発言に影響を受け、麻疹を含む予防接種を控えたのです。結果として、麻疹の大流行が起きてしまったのです。

麻疹の集団免疫低下の理由は?

20世紀までは世界中でよくみられた麻疹。このウイルス感染症が、21世紀になってからほとんど稀にしかみられなくなったのは、麻疹ウイルスに対するワクチン接種のおかげでした。予防医学の歴史でも特筆すべき医療介入といえます。 麻疹の予防接種は2回打ちが標準です。地域全体での麻疹予防接種率について、世界全体で平均してみると、1回接種で85%、2回接種で67%です。ワクチンによる感染症予防では、集団免疫という現象をもたらすためにも、地域全体での接種率を高めることが大切です。集団免疫は、集団の予防接種率はある程度のところまでいくと、流行そのものを減らすことができる現象です。麻疹の集団免疫の獲得閾値は95%以上の接種です。 それほど効果がある麻疹の予防接種がなぜ行われなくなってきたのか。ウクライナのように内戦による社会混乱が原因で予防接種が行われなくなり、麻疹が大流行したケースもあります。2014年に内戦が起こり、続く2018年には、5万人以上もの麻疹感染者が出たのです。

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