【書評】日本の「死の商人」を衰退させたら中国が発展した皮肉

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各国が自らの主張をより声高に訴えるようになった昨今、国家運営や外交において常に難しい舵取りを迫られている日本政府。「安全保障環境」についてはあまりオープンに語られないのが現状ですが、目を背け続けることができないのもまた自明の理です。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、そんな重要事案について安全保障の専門家が語り尽くす一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:渡部悦和・江崎道朗『言ってはいけない!? 国家論』

81oLiNoqCOL言ってはいけない!? 国家論
渡部悦和・江崎道朗 著/扶桑社

渡部悦和は日本戦略研究フォーラム・シニアフェロー。江崎道朗は評論家。経済は常に政治(国家の意思)に翻弄される。それを前提に、外国の思惑にいかに適切に対処するのか、経国の大計を論じ合う。日本はなぜ当事者能力を失ってしまったのか。一方でなりふりかまわず相手国に攻勢をしかけるアメリカや中国は、なぜそのようなことができるのか。安全保障の専門家に聞く。

以下、多くのテーマを語り合う中から、防衛費についての両者の発言内容をミックスし、整理してみる。

国防費増は国家の意志である。国防産業を重荷だと考えたらダメだ。ネガティブなものではなく、成長産業だと考えるべきである。例えば5Gでも、AIでも、ロボットでもそうだが、他国はこの分野をひとつの有力な産業だと捉えて、国防予算を当てながら官民協力して開発を進めている。

日本の装備品は高いといわれるが、当たり前だ。防衛省が買ってくれる量が少ないから。つまり、装備品の輸出を真剣に考えなければいけない。「死の商人」的な批判をして我が国の防衛産業を衰退させていった結果、アジア各国の軍隊の装備は中国製になった。日本の軍需産業を頭ごなしに批判することは中国の防衛産業の世界展開中国のアジア進出を支援していることを理解すべきだ。

防衛関係の研究なんかやらない、と宣言する日本の大学は、ぜひその通りにすべきである。防衛と関連する研究をやらないことに徹底すればよい。しかし、多くの技術は軍事専用と民間専用という形ではもう分けられない時代だ。コンピュータも携帯電話もスマホも、すべて軍事技術から派生した側面がある。

国防にはかかわりたくないというのであれば、矜持を持ってそれらを使わないという決断が必要なのでは。日本政府も態度が中途半端である。大学が軍事に利用できる研究はやりたくないと言っているのだから、「よし、わかった。軍事と関連しそうな研究予算全部削るね」と言えばいいのだ。科学技術分野はほぼ軍事と関連するので、その分野の予算はごそっと削ってしまうのだ。

そこで浮いた予算は防衛費や防衛産業、民間シンクタンクに回してもらいたい。「軍事研究しなければ平和が手に入る」という根拠はどこにもないということを、わかりやすく(ちょっと意地悪く)説明している。日本はこのままでは右肩下がりで没落していく。この対談では、外国の具体例を紹介しながら、では日本はどうすべきか、という対策まで議論していてとてもエキサイティングだ。

以下は、本の内容とは関係ない。外国(おもに特定の国々)が明白に日本に害をなしても、国内でなんらかの不祥事が生じても、官房長官は「極めて遺憾だ」とコメントする。そこには何の意味も効果もない。今後はすべての政治家に、あらゆる場面で、この曖昧で無責任な「遺憾の使用を厳禁すべきである。

きちんと、どこが思い通りでなく残念だという具体的な説明をせよ。ずいぶん昔、植木等がヘラヘラ笑いながら、何事についても「♪まことにいかんにぞんじ~ます」と笑い飛ばした。いまやその程度の意味しかない「遺憾」など、思考停止の無用で有害な政治用語だ。遺憾なんぞ使っちゃイカン。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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