バハマを襲う史上最強ハリケーンが残した、貧者への警告

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海外のメディアのニュースを、日本のマスコミではあまり報じられない切り口で本当はどういう意味で報じられているのか解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。今回は、フロリダ沖合を襲った大型ハリケーンドリアンによるバハマの被害について、その背後にある環境問題・南北問題とともに解説されています。

バハマを襲ったハリケーンが残した、貧者への警告

【ニュース解説】

ハリケーンドリアンがフロリダの沖合にある小さな島国バハマを襲ったのは9月1日のことでした。

バハマといえば、タックスヘブンの楽園というイメージを抱く人が多いでしょう。
実際、ここには世界の富が集まっています。2016年に「バハマ文書」が暴かれ、世界の多くの企業や個人がバハマに架空の会社をつくり、脱税行為をしていたことが公になり、話題になりました。それに象徴されるように、金融業による収入が国の経済の柱となっていることは事実です。また、アメリカに近いことから、バハマは温暖な観光地としても知られたところで、富とレジャーがバハマの大方のイメージになっています。
実際、バハマ経済の65%は観光と金融サービスから産み出されているのです。

そんな人間の欲望の象徴であるかのような島に大型のハリケーンが上陸し、多くの死傷者行方不明者がでたときけば、一体誰が被害にあったのかと思うはずです。実際、富裕層の多く住むバハマの中心部では、ハリケーンのあとも何もなかったかのように人々がマリーンスポーツを楽しみ、金融関係者はそんな施設のあるホテルのレストランで投資や融資について情報を交換しているのです。

しかし、バハマは決して彼らだけの島ではないのです。そこにはカリブ海のもう一つの島国ハイチなどからの移民が多く住んでいます。そして、彼らの生活は決して豊かではありません。バハマも他の裕福な国々と同様に深刻な格差の問題を抱えているのです。

バハマの中心地から飛行機で北にほんのわずか飛べば、アバコ Abaco 諸島に到着します。ハリケーンドリアンで壊滅的な打撃を受けたのは、そこに住むハイチからの貧しい移民たちだったのです。

ここでハイチ系移民について解説します。ニューヨークで車を駐車場などにいれるとき、黒人系の係員同士がフランス語で話をしていることに気付くことがあります。彼らがハイチからの移民です。
ハイチはもともとコロンブスが寄港した島として、スペインの統治下にありました。当時、ハイチでは多くの黒人奴隷が鉱山の開発などに従事していました。その後、スペインの衰退を受けて、1697年にハイチはフランスの植民地となったのです。それがハイチの人々がフランス語を話す背景です。

ハイチはその後独立しますが、政治的経済的な混乱が続き、多くの人々が国を離れました。最近でも、地震やハリケーンなどの被害から立ち直れないまま、人々は貧困に苦しんでいます。
ハイチの隣国ドミニカ共和国では、そんなハイチからの移民への差別が今でも政治問題となっているのです。

バハマにもそんなハイチ系移民のコミュニティがあり、その数は8万人にもなろうかといわれています。人口が40万人にも満たない島国としては、それがいかに大きい数かがわかるはずです。バハマ政府はそうしたハイチ系の人々の中に不法入国者がかなりいるとして、近年強制送還の措置を執行し、近隣で物議をかもしたこともありました。

そんな貧しいハイチ系の人々にとって、毎年9月はリスクの多い月となりました。9月はハリケーンがカリブ海で発達しやすい時期だからです。

前々回に解説したブラジルでの森林火災など、世界は環境汚染に喘いでいます。最近のナショナル・ジオグラフィックの特集では、南極のペンギンまで人類が作り出した汚染によって、その羽毛から水銀が発見されていることが報道されていました。地球の環境汚染が最早危機的な段階になっていると多くの人が警告しているのです。

環境汚染と地球の温暖化の因果関係が云々される中で、明らかにカリブ海でのハリケーンは巨大化してきています。水温が上がり、湿気をもった上昇気流がハリケーンの成長を加速させているのです。

我々は地球の環境の変化は、自然に影響を与え、ホッキョクグマなど多くの種が絶滅の危機に瀕しているという報道をよく耳にします。しかし、弱者は単に動物や植物だけはありません貧困に苦しむ人々が劣悪な住宅に住みそこにハリケーンが上陸すれば当然深刻な被害に見舞われます

今回のバハマでの惨事はその典型的な実例だったのです。
ハリケーンドリアンでの行方不明者は2500人にもなろうかといわれています。しかも、その実態を正確に掴むことはいまだにできずにいるのです。カリブでも際立って豊かな国バハマに不法に移住してきた人々がどれだけいるのか、そしてどれだけの人が実際に把握されているのか、実態はなかなかつかめません。

地球規模で見れば格差は南北問題とされ、アフリカや中南米など南で生まれる貧困がヨーロッパや北米への移民の流れを作り出しそれが社会問題となっているといわれています。一方で、移民の労働力なしには、豊かな国の人々は自らの生活を維持しにくくなっていることも事実です。

日本も決して例外ではありません。また、貧しい移民がハングリー精神をもって豊かな国に溶け込んで、その国の生産性を引き上げてきた事実もアメリカの歴史などをみればわかってきます。しかし、バハマでのハイチ系移民の問題は、そんな豊かな国の中に潜んでいる隠れた「南北問題」を浮き彫りにしたのです。

現在世界の飢餓人口は、8億5千万人とされています。世界の総人口からみればおおよそ9人に1人が飢餓の恐怖に見舞われています。ハイチは、そんな飢餓に苛まれる国の一つです。そして、地球の気候変動が、この飢餓の問題と無関係ではないこともよく指摘されます。貧しい地域は気候変動による飢饉や食料不足の直撃を受けやすいからです。

バハマのビーチでカクテルを楽しむ人々のすぐそばに、そんな飢餓が同居している実態が今の世界の実情なのです。20世紀後半になって、豊かさが世界に浸透し、徐々に飢餓の問題が解決に向かうのではと思われていました。しかし、最近その治癒のペースが大きく失速し、過去へ逆戻りしつつあるという報道もあります。環境問題と南北問題、格差の問題は決して無縁ではなく、日本人にとっても他人事ではないのです。

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