利害が対立する交渉場面では、なんとかして自分の主張を相手に認めさせることばかりに考えが向きがちですが、むしろ「相手の声に耳を傾けるのが大切」とするのは現役弁護士の谷原誠さん。谷原さんは無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』で、生産的な議論に役立つ相互理解の重要性についてわかりやすく解説しています。
自分を抑える勇気
こんにちは。弁護士の谷原誠です。
議論したり、口喧嘩したり、交渉したりするときに、人は、「どうしたら自分の言うことをわかってくれるだろう」、などと考えます。
自分は自分の考えが正しいと信じていますので、「自分の考えが正しいはずだから、相手が自分の考えを理解してくれたら、同じ考えになるはずだ」、などと考えます。そのために、何とかして、自分の言いたいことを全部相手に伝えようとします。
しかし、多くの場合に、望む結果は得られません。なぜなら、相手も同じように、自分の考えが正しいのだから、自分の考えを全部理解してくれたら、相手は同意してくれるだろうと考えているからです。つまり、2人で議論する場合、2人ともが、いかにして自分の考えを相手に伝えようか頭で考えていることになります。
そうすると、どうなるかというと、相手が話してる途中でも、自分の考えと違う場合には、話を遮り、質問し、相手の言葉にすぐ反論し、相手が全て言いきらないうちに、相手の会話を終わらせます。その結果、相手の考えを全て理解する前に、自分の主張を開始することになります。
しかし、相手も同じことを考えているわけですから、こちらが発言している途中でそれを遮り、質問し、反論することによって、こちらが全部主張を言い切る前に相手の反論が始まることになります。
そして、相手が何か話している最中には、その話を理解しようというよりは、「また、そんなことを言っているのか。じゃあ、次はどう言ったら相手はきちんと理解してくれるのだろう」などと考えていたりします。
そうやって、結局、どちらの言い分も全て相手に伝わらずに議論が進んでいくことになります。これでは、生産的な議論にはならないことは、明らかです。
生産的な議論にするには、自分の主張をしっかり相手に伝えて理解してもらい、相手の主張をしっかり聞いて自分が理解した上で、議論を構築していく必要があります。
ではどうすればいいかというと、どちらか一方がすべての主張を言い切るまで、他方は反論したりせず、全てを聞いて理解するということになります。そして、全てを理解したら、反対側の当事者が、相手が全て理解するまで説明を続けることになります。そうすると、お互いが、相手の主張を理解した上で、ではどうすれば良いのか、解決策は何かということを考えることができることになります。
相手がこの原則を身に付けているならば、自分から言いたいことを言うことができるでしょうが、相手がこの原則を身に付けていない場合には、自分の方がまず聞き役に回るということが必要になってきます。この習慣を身に付けるには、自我を抑え、我慢をすることが必要になってきますが、結局は、この方が良い結果が得られると信じて習慣化してみることをお勧めします。
私は、この原則については、利害対立の交渉をうまく進めるためのアプローチとして、平成17年に『思いどおりに他人を動かす交渉・説得の技術』(同文館出版)の中で紹介しました。
その後『7つの習慣』(スティーブン・コヴィー博士)を読んだ時、人間関係のアプローチとして、「理解してから理解される」という原則として紹介されているのを発見し、全く異なるアプローチでも、同じ考え方にいきつくのかと思い、感動した記憶があります。
成功法則に関する本が、だいたい同じ内容が書いているのも、特に真似をしているわけではなく、どんなアプローチをとっても、だいたい同じ原則にたどり着く、ということなのではないか、と思った次第です。
私の新刊です。
『人生を変える「質問力」の教え』(WAVE出版)
法律相談は、こちらから。
● 弁護士が教える法律知識 ご相談・お問い合わせ
今日は、ここまで。
image by: Shutterstock.com