現役探偵が明かす、私立校「いじめ問題」の想像以上に酷い現場

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本業である探偵という仕事をしっかりとしつつ、その範疇を超えて「いじめ問題」に関するNPO法人を設立したり、月2回発行のメルマガ『伝説の探偵』を執筆するなど、学校の「いじめ問題」に真正面から取り組んでいるT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。なぜ探偵が「いじめ問題」に取り組むことになったのかという経緯から、「いじめ」に対する学校側の根本的な問題までを具体的な事例を挙げてお話いただきました。その実態は、子を持つ親でなくともかなり衝撃を受ける内容でした。

普通の子がいじめをしていることが「よくあること」になっている現状に衝撃

──最初に、なぜ阿部さんは探偵になろうと思われたのでしょうか?

阿部:実は「T.I.U.総合探偵社(以下、T.I.U.)」を立ち上げる前にも、友人が探偵業をしていたこともあって、少し探偵業に足を踏み入れていたんです。バイクのレースを子供のころからやっていたこともあって、ヘルプで呼ばれてバイクで尾行をするということをしていました。その頃はテレビ番組の制作会社にいたのもあって、尾行に使用するカメラや録音機器などの機材の扱いにも慣れていることもありました。

そして一時期、身体を壊してしまい、「さぁ次は何をしようか?」と思った時に、探偵をやってみようと思ったんです。その時なぜ探偵を選んだのかというと、友人の手伝いとして探偵の仕事をしている時に「凄く大事なことをしている」というのを強く感じていたことがあります。探偵が「証拠を取る」ということは、裁判の証拠になるわけで、その人の一生を左右してしまうわけです。探偵というのは、すごく大事な仕事なんだ、ということからしっかりと取り組んでみようと思ったんです。 

──探偵業の中で阿部さんは「いじめ」という社会問題に取り組まれています。「いじめ」について取り組もうと思われたきっかけはどのようなことからなのでしょうか? 

阿部:ぶっちゃけてしまうと、最初は全然やる気はありませんでした。それまでも子供の家出の調査はしていましたが、「いじめ」ということについて調査がどのくらい必要か想定していなかったんです。それに「いじめ」問題を調査するということになると、学校に調査に入らなければならない。

この学校というのは不貞行為、いわゆる不倫の調査のスタート地点になりやすい場所で、やりづらさを知っていたんです。容易く学校の中に入ることはできないし、うかつに入ると、すぐに不審者情報として扱われてしまうんです。そういう学校へのアプローチのハードルの高さもあって、実は最初の依頼は、3回断っているんです。

最終的には調査を受けたのですが、その理由もT.I.U.を立ち上げて1年ぐらいの頃には、探偵業界の中で有難いことに「新しい捜査するなら阿部のT.I.U.しかないだろう」と言われ始めた時期だったのもあって、ではチャレンジをしてみよう、ということからだったんです。

──あくまで新しいジャンルへの取り組みとして「いじめ」問題への調査を始められたと。

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阿部:はい。ちなみに最初の調査の内容は、万引きの強要でした。そこで衝撃を受けたんです。グレた子が万引きをやらせていたのであれば、僕もある意味、納得したと思うんですけど、調査を進めるうちに、加害者の子の家は比較的裕福だし、学校の成績も優秀だし、見た目もそういうグレた感じでもなかった。そういった普通の子が万引きの強要をしていた。それに被害者の子に話を聞いたら「よくあることだと思う」と。今、こんなことになってしまっているのか、と。

初めて「いじめ」問題に取り組んでみて、学校は本当に上っ面のことしか見ていない、ということが分かったんです。その衝撃から、これは探偵としてのカテゴリーの中に入れるべきだと感じて、いろいろと調べることから始めたんです。

──実際に「いじめ」問題を調査することで実態が見え、調査するべきだと感じたわけですね。そんな「いじめ」問題は、子供だけではなく大人の世界でも問題になっています。いきなりですが、「いじめ」をなくすための方法というのはあるのでしょうか?

阿部:もちろん僕らは「いじめ」がゼロになることを目指しています。ですが社会構造として「いじめ」が起きてしまうのはしょうがないのかな、というあきらめの部分も多少あります。

よく「罰則を強化しよう」という話がでますが、仮に罰則を強化しても、いじめが完全に無くなることはないし、逆にその罰則を利用して見た眼は弱者なんだけど、権利上は強者になってしまうことで、脅したりすることがまた発生してしまうのではないかと思っています。

 ──新しい罰則や制度が、新しい「いじめ」を作ってしまうことがあると。

阿部:もちろん、子供のいじめについては法律の強制力はあって欲しいとは思いますが、「いじめ」問題は法律の問題というよりも、個人間の問題が大事だと思っています。まず「見て見ぬふりをする」人がもっと減ればいい。これは子供でも大人でも同じなのですが、「それはちょっと言い過ぎなんじゃないんですか?やりすぎじゃないんですか?」と言える雰囲気を作ることが大事だと思います。また教育の段階で、「いじめがあったら言っていいんだよ」ということもやっていく必要があると思います。 

──「いじめ」を注意した人が、今度は「いじめ」を受けてしまう、というスパイラルを生む場合もありますし、注意するにも勇気が必要になりますよね。

阿部:そうですね。だからこそ、そういった一人一人の意識を変えられる著名人などが、言葉だけではなく、行動として実践していく必要があると思います。

──教育の段階から「いじめ」について話をしやすい空気を作るためには、教師の力が重要になってくるとは思いますが、教師という職業はかなりのオーバーワークと感じてしまうことが、親目線からでもあります。「いじめ」を解決するために、学校という制度の中で何を変えていくべきだと思いますか?

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阿部:「すべて教師が解決しなければならない」という風潮があることが、まず問題だと思います。もちろん学校内で起きていることですから、学校として取り組まなければならないのですが、物理的にできない学校もありますし、実際に取り組もうと思っても、権限を持っていない先生も多い。

最近ではちょっと腕を引っ張っただけで「体罰」だと文句を言うような親御さんいますし、先生達の立場は実は強くないんです。なので、教師がなにもかもを担当するのではなく、学校制度の中に、「いじめ」問題や生活問題全般を担当する人、役職が必要だと思っています。

──確かに海外の教育の現場では、メンタルヘルスを専門にする人が学校にいると聞いています。

阿部:海外の教員というのは専門性が高くて、分業が進んでいるんですよね。日本の昔からの観衆に基づいて、教員に万能感を持たせようとする、という風潮は間違っていると思うんです。

──昨今日本では何か問題があった場合、「第三者委員会」が設立されて問題の解明に当たることが多くなっていますが、学校における「第三者委員会」というのは機能しているのでしょうか?

阿部:「第三者委員会」についてはそもそもの設立から問題があることがあって、「本当に第三者なの?」という。学校側が選んだ人たちが、仕事をもらえなくなってしまうのではないんじゃないか、という無言の圧力から、学校に都合のいい報告をしてしまうことがある。なので「第三者委員会」を審査する「第三者機関」が必要なんじゃないか、という問題もはらんでいる。本来なら公立校であれば「いじめ対策委員会」というのを持っていなければいけないのですが、実際には機能していない場合が多いんです。

──そうすると現場の教員達が解決することになると……まさに構造的な問題ですね。

阿部:もちろん、勇気のある校長先生がいる学校では、校長先生の権限の中で、オヤジの会などを作り、保護者を巻き込む取り組みをしていることもあります。その学校に行くと皆さん忙しそうにしているのですが、何か問題が発生した時に、教員だけではなく、周囲の大人がしっかりと関わってくれるので、親も子供も安心していられる。ただ、問題なのはそういった取り組みをしているところが、少数派であるということなんです。

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